(虹の会機関紙「SSCにじ」11月号より転載)
「JRは駅無人化をやめよ!」
~久喜市議会で駅有人化を求める意見書を可決したことについて、議員さんから話を聞いた~
◆新聞社の取材から
9月に大分県で障害者3人が駅の無人化により「移動の自由」を侵害されたと、JR九州に損害賠償を求め提訴した。そのときに全国の動きとして私たちの活動を知ったいくつかの新聞社から取材があった。
ある新聞社の記事には障害者から不満が出ていると書かれていた。ちょっと待てこれは不満ではないぞ、当たり前の権利を主張しただけだ。私たちは文句を言っているわけではない、なぜ車いすに乗っている障害者だからといって事前に駅へ連絡をしなくてはならないのか、を問うているのだ。記事によると3日前までに連絡が必要という駅もあり葬式に行けなかった、最寄り駅が急に無人化になり一つ先の駅で降ろされるようになった、と書いてあった。
果たしてこれは不満なのだろうか。この記事の書き方には正直納得がいかないと思っている。私たちがこの問題に気づき動き出したのは去年の6月頃。それから一年以上経ちようやく注目されはじめたのは良いんだけど。
いくつか取材を受けたウチの一つに東京新聞があった。早速読むと【埼玉県久喜市の市議会で、地元駅の無人化は利便性と安全性の低下を招きバリアフリー法の趣旨にも反するとして「駅利用者の安全安心確保のため駅有人化を求める意見書」を可決した】と書いてあった。同じ県内にいながら市議会で意見書を可決するような動きがあったことをまったく知らなかった。そのときからこれは事の経緯含めて直接話を聞かせてもらいたいと思っていた。
意見書にどれほどの効力があるのかわからないが、私たちの活動に取り入れられることがあるかも知れないと思ったし、個で活動していくのではなく一緒に手を組んでこのうねりを大きくしていきたいと思ったから。
◆「意見書」というもの
11月21日(土)、意見書を市議会に提出した日本共産党久喜市議の杉野さん石田さんから話を聞くことが出来た。
事前に電話で日程を決めるやり取りをしていたとき「平成28年のことでねぇかなり前の話なんだよね」と言っていた。そういえば2018年時点で首都圏の111駅が早朝無人化されているとずいぶん後になってから聞いたことがあった。乗降客数に関係なく早朝無人化されていることに驚いた記憶がある。どうやら駅の人員配置に基準はないそうで事業者任せらしい、という事にも驚いた。はっきりとは覚えていないが私たちの最寄り駅の南与野駅も3、4年前から窓口にいる駅員の数が減ったように感じていた。じわりじわりと無人化の波は来ていたんだなと今になって思う。
今回話を聞かせてもらって驚いたのは、市民からの要望で有人化を求める意見書を提出しようとなったわけではないということだった。話を聞かせてくれた議員の石田さんが普段利用している栗橋駅が早朝無人になり「こりゃ一大事だ安全性が保てなくなってくる」と党内の議員に話し、意見書として議会に提出し全会一致で可決されたということだった。
議会に提出した時どの議員からも「それは大変なことになる」と、反対の声を上げる人はいなかったとのことだった。すごいなと思ったが、そもそも反対する理由の方が浮かばないよなと思った。まっとうな議会で安心した。
また、なぜ意見書を通せたのかという話の中で、最大会派へまずあいさつにいくといい、と言われたのは驚いたが、慣習として可能性があるのだということ、そして国会などではまず手を組めなそうな党系の議員とも、その程度のことで手を組める可能性がある、それが地方議会なのだということは、目からウロコであった。
意見書可決というのがどういうものなのか自分たちにとって身近なものではなくて、何をどうしたら意見書を提出出来てまた可決されるのかを聞いたら、意見書を提案するには議会の12分の1の議員数が必要とのこと、そして可決されるには過半数の賛成が得られれば通り、内閣総理大臣や国土交通省宛てに提出するらしい。
「全国に何百ある自治体の一つが国に意見書を出したところで、国としては痛くも痒くもないだろう。自分たちも意見書を出したきりでその後の動きはとれていないが、無人化の波は大きくなる一方なので食い止める動きを起こしていきたいと思う」と、杉野さん石田さんは話してくれた。確かに全国の自治体から無人化反対の意見書が国宛に送られてきたらさすがに国だってその声は無視できないだろう。
子どもの医療費無料化も各自治体が国に要望して実現したらしい。そう思うと虹の会の機関紙先月号に載せた6自治体だけではまだまだまったく足りないんだと思う。
私たちの地元であるさいたま市は残念なことに市独自の紳士協定なるルールがあるそうで、本来であれば議会の12分の1で提案することが出来る意見書が無所属を除く会派の一致が無ければ議会に提案することすら出来ない事になっているらしい。議会に提案する前にすでに議員の同意が必要となると議会での議論は深まらないし、そもそも意見書なんて出せないと思う。
◆世論をつくるということ
そして議会の意見書だけではなく「駅無人化になったら困るよね」という世論づくりが大事だと今回改めて感じた。今はまだ車いすの障害者や視覚障害者のごくわずかな人たちしか「駅の無人化止めて」と言っているにすぎないから、ちょっとニュースに出ただけで、「また障害者がめんどくさいこと言っている乗れるんだから事前連絡ぐらい我慢しろ」「JRは民間企業でボランティア団体じゃない」と誹謗中傷の嵐となる。
何でもそうだけど自分は関係ないと思っている事って本当に多いと思う。世の中そういう流れなんだから仕方ないともよく言われる。
確かに、駅員に頼まなくても電車に乗れたりキャッシュレスやスマホ決済で切符を買えたり自分で乗り換え駅を調べられる人は、駅が無人化されても気にならないかも知れない。でもそこで自分は問題なく乗り降り出来ているけど、そうじゃない人たちはどうしているんだろうか、きっと不便になっているんじゃないだろうか、とちょっと思いを馳せてくれたらと思うけど、まあそう簡単にはいかない。
でも自分たちが諦めずに声を上げたことで新聞の取材が来たり、大分の障害者3人が裁判を起こしたことで世の中的にも話題になったりしている。
「障害者のくせに生意気だ」と言う人もいるけど、「無人化はおかしい」と一緒に声を上げてくれる人もいる。だから一緒に声を上げてくれる大きなうねりを作っていきたいと思う。「駅の無人化は困る」とだれもが感じて声を上げたらJRだって国だってその意見を無視することは出来ないと思うから。
そういう意味では、まだこんなに無人化が本格的に進んでいない何年も前に意見書を国に提出した6自治体はすごいなと思った。
大阪府堺市では平成25年に「駅無人化を中止・撤回し、駅有人化を義務付ける法律の整備を求める意見書」を可決。大阪市でも平成26年に「駅無人化問題への対応を求める意見書」を可決。大阪府でも平成28年に「駅利用者等の安全安心確保のため駅有人化を求める意見書」を可決。熊本県玉名市は平成27年に「九州新幹線新玉名駅ホームの無人化計画の見直しを求める意見書」を可決。そして久喜市は平成28年に「駅利用者等の安全安心確保のため駅有人化を求める意見書」を可決。同じく埼玉県吉川市でも平成28年に「駅のホームドア、ホーム柵設置や適切な駅員配置などの安全対策を求める意見書」を可決。
たとえば堺市の意見書を読んでみると、『JRでは無人駅はないというものの、時間帯により有人の改札及び窓口を閉鎖する駅が、堺市において7駅中3駅あるという事態が生じている。無人化の理由は、利用者減などによる鉄道経営の困窮のためという一点張りである。バリアフリー法第1条や、障害者基本法第2条第2項で「交通施設その他の公共施設を設置する事業者は、障害者の利用の便宜を図ることによって障害者の自立及び社会参加を支援するため、当該公共施設について、障害者が円滑に利用できるような施設の構造及び設備の整備等の計画的推進に務めなければならない」ことを明確に規定しており、今般のような駅の無人化はこれら法律の趣旨、精神に反するものですあり、到底容認できるものではない。』(抜粋)など、かなり突っ込んだ内容になっていて読んでいてうなずくことが多い意見書になっている。
きっと他の市町村だって駅が無人化されて安全安心の確保が出来ず苦しんでいるところも多いはずだ。ぜひこの6自治体をマネして取り組んで欲しいと思う。
◆声を上げ続ける
杉野さん石田さんの話の中で、無人化を阻止する方法として「法律作っちゃうっていうのもあるんですよね」とも言っていた。「各駅に駅員を一人以上置かなければならない」という法律。「法律は無視できませんから」とのこと。決まりを作らなければならないことには情けなさもあるが、少なくとも駅員の配置について事業者任せではなく国に基準をもたせることは、鉄道事業を許可する者としての立場を明らかにさせるという象徴的な存在になり得るのではないかと感じた。
また「政権を変える」という考え方。この無人化の方向性は、もちろん絶対的なものではない。社会をどう導いていくかという考えに沿って容認されているものなのだから、自分たち国民が、どういう社会を目指すのかということについて「自分のこと」として受けとめ、選択することで結果として変わっていくもの、ということなのだろう。
杉野さん石田さんは「どちらも簡単ではないんですけどね」と言っていたけど、そもそも、無人化の阻止に容易な道などないのだから、数少ない手として頭に入れておきたいと思った。
話の終盤で、「何か具体的に困ったことや問題なんかはありませんか」と聞かれた。やはり動かすきっかけとしては有効なのだという。ただ、今コロナのことがあって、駅や鉄道から距離をとっており、ぱっと出ないというのもあるが、簡単に言うと「事故待ち」のようで、悲しい気持ちになる。いや、埋もれさせないためにということなのだとはわかっているけれど。
大分での裁判が始まったり国会で障害当事者の議員木村英子さんが取り上げたりしたこともあり、最近になって国土交通省が「駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関する障害当事者団体・鉄道事業者・国土交通省の意見交換会」をマスコミも入れて11月6日(金)に開催したらしい。その後の報道がまだ無いのでなんとも言えないけれど、国としても公共交通機関といっている以上、不便無く鉄道が利用できる環境を整えていくことが重要である、とは思っているらしい。
この意見交換会は年度内に3回開催し来年度まとめに入るらしい。無人化前提でどのように工夫していったらいいのか、という話に進まないよう、代表で参加している障害者団体の人たちには大きな力に飲み込まれずに踏ん張って欲しいと思っている。障害者にだけ事前連絡を課すなんてこんな屈辱的なことはないのだから。
そして私たちもコロナまっただ中で電車どころかバスにも乗れない日々だけれど、出来ることを考えながら声を上げ続けていきたいと思っている。
(文:加納友恵・内藤亜希子)
【ブログ内関連記事】
◆「JRは駅無人化をやめよ!」の現在 (2020/11/1)
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◆「できれば事前連絡」にこだわる理由~JRの駅無人化問題~(2020/10/2)
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◆「最後に安全を守るのは現場の人間ではないのか~関係者と話をした」
~さいたま市は駅無人化を進めるJRに是正を求めよ!~
(2020/9/18)
http://www.nijirock.com/blog/?p=13947
◆【議事録】第1回話し合い~さいたま市は駅無人化を進めるJRに是正を求めよ!」(2020/7/27)
http://www.nijirock.com/blog/?p=13880
◆【総括】第1回話し合い~さいたま市は駅無人化を進めるJRに是正を求めよ!」(2020/7/27)
◆「さいたま市と第1回話し合い~さいたま市は駅無人化を進めるJRに是正を求めよ!」(2020/06/19)
◆「さいたま市は駅無人化を進めるJRに是正を求めよ!その後。」(2020/5/3)
◆電車に乗りたいときに乗りたい。要望書提出~JRは駅無人化をやめよ~(2020/3/26)
http://www.nijirock.com/blog/?p=13581
◆JR東日本とさいたま市に要望書提出~「さいたま市はJRの駅無人化をやめさせよ!」(2020/3/21)
◆「さいたま市はJRの駅無人化をやめさせよ!」の本日までの状況(2020/3/6)
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◆『さいたま市はノーマライゼーション条例に抵触しているJRの駅無人化をやめさせよ!』決起集会を虹の会本部事務所で開催しました。(2020/2/27)↓
http://www.nijirock.com/blog/?p=13416
◆『さいたま市はJRの駅無人化をやめさせよ!決起集会報告』(2020/2/15)↓
http://www.nijirock.com/blog/?p=13365
◆『決起集会を行います~さいたま市はJRの駅無人化をやめさせよ!』(2020/1/1)↓
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◆『我々は呼びかけます!!~駅無人化によってJRはさいたま市ノーマライゼーション条例に抵触している!』(2019/11/25)↓
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◆『緊急!独自調査~JR東日本が押し進める駅の無人化~』(2019/9/28)↓
★虹の会HP↓
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